IT企業(従業員80名)における上司による人格否定を伴うパワーハラスメントの解決支援

事例の背景

都内に本社を置く従業員80名規模のIT企業様より、深刻なパワーハラスメント事案についてご相談をいただきました。本事例は、管理職による部下への人格否定的な言動が継続的に行われ、被害者が深刻なメンタル不調に陥ったケースです。

関係者プロフィール

行為者:40代後半 男性 開発部門課長

入社15年目のベテラン管理職。技術者として高い能力を持ち、数多くのプロジェクトを成功に導いてきた実績がある一方で、部下への指導方法については「厳しい」「詰める」スタイルで知られていました。自身が若手時代に受けた厳格な指導を成功体験として持っており、それが正しいマネジメントだと信じていた側面がありました。

被害者:30代後半 男性 チームリーダー

入社8年目で、プログラマーからチームリーダーに昇格して2年目。技術力は高く評価されていましたが、マネジメント経験が浅く、チーム統率に課題を抱えていました。真面目で責任感が強い性格で、問題を一人で抱え込んでしまう傾向がありました。

相談に至った経緯と問題の実態

ハラスメント発生の状況

問題が顕在化したのは、四半期ごとに開催される定例の進捗会議でした。被害者が率いるチームは、新規プロジェクトの開発スケジュールが遅延し、四半期目標の達成率が70%程度にとどまっていました。この状況に対して、行為者である課長は会議の場で以下のような発言を繰り返しました。

  • 「そんなだから部下にもなめられるんだ」
  • 「リーダーとして使えない」
  • 「お前の話を聞くのは時間の無駄だ」
  • 「このままじゃチーム全員の評価を下げざるを得ない」
  • 「何のためにリーダーにしたのか、本当に後悔している」

これらの発言は、開発部門の他チームリーダー3名が同席する会議室で行われました。被害者は反論することもできず、ただ黙って聞くしかない状況が続きました。会議後、同席していた他のリーダーたちも「あそこまで言わなくても…」と感じていましたが、課長の立場を考えると声を上げることができませんでした。

被害の深刻化

このような叱責は一度だけではなく、3ヶ月間で計5回の会議において繰り返されました。被害者は次第に会議が近づくと動悸や不眠に悩まされるようになり、業務へのモチベーションを著しく喪失していきました。

そして、下記の状態になりました。

  • 出勤が困難になり、遅刻が増加
  • 会議での発言が極端に減少し、質問されても最小限の回答のみ
  • チームメンバーとのコミュニケーションも減り、リーダーシップが発揮できない状態に
  • 食欲不振、睡眠障害などの身体症状が出現
  • 家族から「最近様子がおかしい」と心配される状態

被害者は家族の勧めで心療内科を受診し、「適応障害」の診断を受けました。産業医面談を経て、人事部門が本格的に事態を把握し、当社へのご相談につながりました。

専門コンサルタントによる介入と対応プロセス

当社は、企業様からの依頼を受け、中立的な第三者機関として本事案の調査と解決支援を開始しました。ハラスメント事案においては、事実関係の正確な把握と、全ての関係者への配慮が不可欠です。

ステップ1:被害者への丁寧なヒアリング

まず、被害者との信頼関係構築を最優先に、2回に分けて計3時間のWEB面談を実施しました。ハラスメント被害を受けた方は、心理的に大きなダメージを負っているため、安心して話せる環境を整えることが重要です。初対面の人とリアルに面談することに抵抗を感じる方も少なくないため、WEB面談は当初に思っていた以上に好評です。

被害者は当初、「自分の能力不足が原因ではないか」「こんなことで相談してよかったのか」と自責の念を抱いていましたが、被害者の話のペースを乱さずに丁寧に傾聴することで、少しずつ心を開いてくださいました。

ステップ2:第三者証言の収集

被害者の了解を得た上で、会議に同席していた他チームリーダー3名、および被害者チームのメンバー2名に対して個別ヒアリングを実施しました。ハラスメント認定においては、被害者の主観だけでなく、客観的な事実確認が極めて重要です。

第三者証言では、会議での課長の発言内容は、被害者の証言とほぼ一致していました。
「あの場にいて非常に居心地が悪かった」「自分も標的になるのではと恐怖を感じた」との証言もありました。
課長の指導方法については以前から「行き過ぎでは」と感じていたメンバーが複数存在していました。
被害者は真面目に業務に取り組んでおり、チームの遅延は技術的な難易度や人員不足など複合的な要因があり、他のチームも同様の課題を抱えており、被害者チームだけが特別に問題があったわけではないとのことでした。
これらの証言により、事実関係の客観性が高まり、「指導の範囲を超えた人格否定的言動」になる可能性があることがわかりました。

ステップ3:行為者(とされる方)へのヒアリング

被害者の了解を得て、行為者とされる方(当初から行為者と断定していませんが、文章の簡略化のため以下「行為者」とします)である課長に対してヒアリングを実施しました。この段階では、一方的に責めるのではなく、課長自身の認識や背景を理解することも重要です。

行為者ヒアリングは下記の結果となりました。
具体的な発言内容を一つ一つ確認したところ、課長は大筋で発言したことを認めました。ただし、本人の認識としては以下のようなものでした。

  • 「厳しく指導しないと成長しないと思っていた」
  • 「自分も若い頃は同じように叱られて成長した」
  • 「チーム全体の目標達成のために、リーダーには奮起してほしかった」
  • 「まさかパワハラだとは思わなかった。本人のためを思っての指導だった」

課長には悪意があったわけではありませんでしたが、「指導」と「人格否定」の区別がついておらず、部下の心理的安全性への配慮が欠如していたことが明らかになりました。また、被害者が深刻なメンタル不調に陥っていることを伝えると、課長は初めて事の重大さを理解し、「そこまでとは知らなかった」と言葉を失いました。

ステップ4:企業への提言と再発防止策の実施

調査結果を企業様に報告し、以下の包括的な再発防止策を提言・実施しました。

①行為者への対応

  • 厳重注意処分および管理職としての指導方法の見直し
  • 1on1での振り返りセッション(3ヶ月間、月1回)
  • アンガーマネジメント研修の受講義務化
  • 被害者への謝罪(企業・コンサルタント立ち会いのもと実施)

②被害者への支援

  • 産業医・心療内科医との連携継続
  • 一時的な配置転換により課長との直接的な報告関係を解消
  • 定期的なフォローアップ面談(3ヶ月間、月1回)
  • 復職プログラムの作成と段階的な業務復帰支援

③組織全体への取り組み

  • 管理職を対象としたパワーハラスメント防止研修(計1回、3時間)
  • 経営層を対象としたパワーハラスメント防止研修(計1回、3時間)
  • 一般職を対象としたパワーハラスメント防止研修(計1回、3時間)
  • 社外(ZEROハラスメント)の相談窓口があることの再周知

④経営者の方針

  • ハラスメントが企業リスクであることの認識を共有
  • トップメッセージとして「ハラスメント撲滅宣言」を全社発信

再発防止策の実施から3ヶ月後の状況

組織の状況

被害者は段階的に業務復帰し、現在は新しいチームで安定して勤務
メンタル不調の症状も改善傾向にあり、通院頻度も減少
行為者である課長は、研修とフォローアップを通じて指導方法を大きく改善
部下からの課長への評価が向上(匿名アンケートで確認)
組織全体でハラスメントに対する意識が向上し、相談件数が適正レベルで推移(隠蔽されず、早期発見できている証拠)

被害者からのフィードバック

「最初は会社に相談しても何も変わらないと思っていましたが、第三者のハラスメントの専門家が入ってくれたことで、公平に調査してもらえました。自分の気持ちを理解してもらえたこと、そして会社が真剣に対応してくれたことで、救われました。
課長に合うのはまだ抵抗がありますが、誠実に謝罪してくれたので、嫌な気持ちは少しずつ落ち着いていっているように思います。」

企業担当者からのコメント

「今回の事案を通じて、ハラスメント対策の重要性を改めて認識しました。専門コンサルタントのサポートにより、適切なプロセスで解決でき、被害の拡大を防げたことが本当に良かったです。またパワハラ問題の再発防止にもつながっていると思います。社員が安心して働ける職場づくりに、引き続き取り組んでいきます。
パワーハラスメント防止研修は定期的に実施していきます。」

本事例から学ぶポイント

ポイント①:「指導」と「ハラスメント」の境界線

業務上の指導は必要ですが、人格否定を伴う言動は決して許されません。「相手の成長のため」という動機があっても、方法が不適切であればパワーハラスメントになります。

ポイント②:早期発見・早期対応の重要性

本事例では、被害者がメンタル不調に陥るまで問題が放置されていました。日常的なコミュニケーションや定期面談で早期に気づけるような仕組みが重要です。
事件は発生してしまいましたが、行為者が真面目な人で指導にも協力的だったので、問題の早期解決につながりました。

ポイント③:第三者機関の活用

社内だけでの解決が難しい場合、専門的な知識を持つ第三者機関を活用することで、公平性・客観性が担保され、適切な解決につながります。
職場のハラスメントの社外相談窓口が有効に機能した事例となりました。

ポイント④:組織全体の意識改革

個別事案の解決だけでなく、組織全体の風土改善が再発防止には不可欠です。
職場のハラスメントの社外相談窓口の全業員の認知と、定期的なハラスメント研修、そして職場で働く一人一人のハラスメント防止意識の向上が職場のハラスメントをZEROにします。

当社では、ハラスメント事案のヒアリング・円満解決支援から、予防のための研修・ハラスメント防止規程の作成まで、トータルでサポートいたします。お困りの際は、お気軽にご相談ください。

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