介護施設(従業員150名)「育休復帰後の嫌味・排除」への対応と職場改革

事例の背景

都内に本社を置く従業員150名の介護事業様より、マタニティハラスメント・パタニティハラスメント事案についてご相談をいただきました。本事例は、リーダー職の否定的な態度が、チーム全体に波及し、同僚からの二次的ハラスメントに発展するというとても残念なケースです。

関係者プロフィール

行為者:50代前半 男性 ユニットリーダー

介護現場で15年以上の経験を持ち、業務遂行能力は高いものの、ワークライフバランスや多様な働き方への理解が不足していた。自身が長時間労働を厭わず働いてきた経験から、「現場にいる時間が長い=貢献度が高い」という固定観念を持っていた。

被害者:30代後半 女性 育休復帰直後のスタッフ

第一子の育児休業から復帰したばかりで、育児短時間勤務制度を利用。復帰前は利用者から信頼される優秀なスタッフとして評価されていたが、復帰後は職場での孤立に苦しんでいた。

ハラスメントの実態と職場環境の悪化

発生したハラスメント行為

育休から復帰した直後から、被害者女性は組織的な排除ともいえる状況に直面しました。
職場の情報共有から意図的に排除されます。
ユニットリーダーは、業務上必要な申し送り事項や利用者の状態変化などの重要情報を、被害者にだけ共有しないという行為を繰り返しました。結果として、彼女は現場で適切な対応ができず、「情報を知らなかった」ことで他のスタッフからも批判される状況に落とされました。

マタニティハラスメント・パタニティハラスメント(育児ハラスメント)発言

  • 「また休まれたら困る。こっちの身にもなってよ」
  • 「子どもを優先する時短なんて甘い考えは通用しない」
  • 「育休中に現場がどれだけ大変だったか分かってるの?」
  • 「時短で帰れるなんて、正直ずるいと思わない?」

これらの発言は、育児をしながら働く権利を否定し、被害者の人格と尊厳を傷つける本来あってはならないものです。

ハラスメントの連鎖と職場の分断

さらに深刻だったのは、ユニットリーダーの否定的な態度が、チーム全体に波及したことです。リーダーの影響を受けた同僚たちも、次第に被害者に対して冷淡な態度を取るようになりました。

同僚からの二次的ハラスメントが発生します。

  • 「時短は気楽でいいよね。私たちがカバーしてるのに」
  • 「子どもがいるから許されると思ってるんじゃない?」
  • 休憩時間に休憩室に被害者が入ると、会話が途切れる
  • 業務の相談をしても忙しいから他の人に聞いてとたらい回しにされる

このような環境の中で、被害者は職場で完全に孤立し、出勤することへの恐怖を感じるようになりました。心身の不調も現れ始め、働く意欲を失いかけ、退職も考えるようになっていました。介護の現場で必要とされる「利用者に寄り添う心」を持っていた彼女が、職場では誰にも寄り添ってもらえない——この矛盾が、さらに彼女を深く傷つけてしまいました。

当社の介入と問題解決プロセス

この施設の「職場のハラスメントの社外相談窓口」に当該女性から相談があり、私たちZEROハラスメントが介入することになりました。以下、段階的な対応プロセスをご紹介します。

ステップ1:被害者へのヒアリングと心理的サポート

まず、被害者女性との個別面談を実施しました。この段階では、単に事実確認をするだけでなく、彼女が安心して話せる環境を整えることを最優先としました。
WEB面談では、ディスプレイ越しでも彼女が涙ながらに「自分が悪いのではないか」「もっと頑張れば認めてもらえるのでは」と自分を責めていたことが分かりました。私たちは、育児をしながら働く権利は法律で守られており、それを否定する発言や行為を職場から無くすために尽力することを伝え、彼女の心理的負担を軽減することに努めました。

ステップ2:復帰支援体制の見直しと制度整備

ヒアリングを通じて、この施設には育休復帰者への組織的なサポート体制が不十分であることが判明しました。そこで、社内の復帰支援プログラム担当者と連携し、以下の取り組みを実施しました。

①復帰支援計画の再構築

  • 復帰前面談の実施(本人・上司・人事の三者で、復帰後の業務内容や働き方を事前にすり合わせ)
  • 復帰後1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月での定期フォローアップ面談の設定
  • 業務の段階的な引き継ぎ計画の明文化
  • 短時間勤務者への情報共有方法の標準化(業務日誌、オンライン共有ツールの活用)

②育休復帰ガイドラインの新規作成

当社のグループ会社であるソラーレ社会保険労務士法人の協力を得て、施設独自の「育休復帰ガイドライン」を作成しました。このガイドラインには、以下の内容が含まれています。

  • 育児短時間勤務制度の正しい理解と活用方法
  • 復帰者と受け入れ側(上司・同僚)それぞれの役割と責任
  • 情報共有のルールと方法
  • ハラスメント防止のための言動チェックリスト
  • 相談窓口の明示と相談の流れ

このガイドラインは、全職員に配布され、今後の復帰者全員に適用されることになりました。

ステップ3:行為者へのヒアリングと問題認識の促進

被害者の了解を得た上で、ユニットリーダーである行為者に対して、問題発言を具体的に例示しながらヒアリングを実施しました。

①ヒアリングのアプローチ

最初から「あなたはハラスメントをした」と断定するのではなく、「このような発言があったと聞いているが、どのような意図だったのか」と、まず本人の認識を確認しました。
リーダーからは、以下のような本音が語られました。

  • 「人手不足の中で、時短で帰られると他のスタッフの負担が増える」
  • 「自分たちの世代は育児も仕事も両立してきた。甘えているように見えた」
  • 「ハラスメントのつもりはなく、現場の厳しさを分かってほしかっただけ」

この発言から、リーダーには悪意はないものの、時代の変化や法律、多様な働き方への理解が著しく欠如していることが明らかになりました。

②問題行為の明確な指摘と教育

私たちは、以下の点を丁寧に説明しました。

  • 育児短時間勤務は法律で認められた権利であり、それを否定する発言は違法
  • 「また休まれたら困る」などの発言は、妊娠・出産・育児を理由とした不利益取扱いに該当する可能性がある
  • リーダーの態度が部下に影響を与え、職場全体のハラスメント環境を作り出していること
  • 人手不足の問題と、個人の働き方の権利は分けて考えるべきこと

リーダーは当初、戸惑いと抵抗感を示しましたが、法的リスクや被害者の心理的苦痛を具体的に説明すると、次第に自身の言動の問題性を理解し始めました。
最終的には、被害者へ謝罪の意思を示しました。

ステップ4:職場全体の意識改革 — ワークショップの開催

個人間の問題解決だけでなく、職場全体の風土を変えることが再発防止には不可欠です。そこで、部署全体を対象に「育児と仕事を両立する風土づくり」をテーマとしたワークショップを開催しました。

以下、ワークショップのプログラム内容です。

①ハラスメントの基礎知識と法律の理解

  • マタハラ・パタハラとは何か
  • 育児介護休業法の基本
  • 職場で起こりがちな事例紹介

②グループディスカッション「多様な働き方を支える職場とは」

参加者を小グループに分け、以下のテーマで話し合いました。

  • 時短勤務者がいるチームで、どう業務分担すれば公平感が保てるか
  • 「時短は楽」という誤解はなぜ生まれるのか
  • 自分や家族が同じ立場になったとき、どんな職場環境を望むか

このディスカッションでは、普段は声を上げにくい若手スタッフからも、「いつか自分も育児や介護で制度を使うかもしれない」「お互い様の気持ちが大切」といった意見が出ました。

③ロールプレイング「こんなとき、どう声をかける?」

  • 時短勤務者が帰る時間に、まだ業務が残っている場面
  • 子どもの急病で休む連絡を受けた場面

など、実際の場面を想定し、適切な声かけと不適切な声かけを体験しました。

④職場でのコミュニケーションルールの策定

ワークショップの最後に、参加者全員で「私たちのチームのルール」を作成しました。

  • 情報共有は全員に平等に行う
  • 制度利用者を否定する発言はしない
  • 困ったときは「助けて」と言える雰囲気を作る
  • お互いの事情を尊重し、感謝の言葉を忘れない

このルールは、ユニット内に掲示され、全員で守る約束となりました。

取り組みの成果と職場の変化

被害者の回復と職場復帰

一連の取り組みの結果、被害者女性は徐々に職場での居場所を取り戻していきました。ユニットリーダーからの直接の謝罪、同僚たちの態度の変化、そして制度的なサポートが整ったことで、彼女は「もう一度この職場で頑張りたい」と前向きな気持ちを取り戻しました。
6ヶ月後のフォローアップ面談では、「今は安心して働けています。同僚も協力的になってくれて、子どもの話も普通にできるようになりました」と笑顔で語ってくれました。

ユニットリーダーの変化

行為者だったユニットリーダーも、大きく変わりました。ワークショップ後、自ら育児短時間勤務制度について学び、業務の効率化や情報共有の仕組みづくりに積極的に取り組むようになりました。「自分の固定観念が間違っていた。これからの時代のリーダーにならないといけない」と、自己変革を続けています。

組織全体への波及効果

この取り組みは、一つのユニットにとどまらず、施設全体に良い影響を与えました。

  • 育休取得率の向上(男性職員の育休取得者も初めて誕生)
  • 離職率の低下(特に子育て世代の定着率が改善)
  • 職員満足度調査での「働きやすさ」項目のスコア向上
  • 採用活動での評価向上(「働きやすい職場」として求職者から注目)

まとめ — ハラスメント防止が組織を強くする

この事例は、ハラスメントが個人の問題ではなく、組織の風土や制度の問題であることを示しています。当社の介入により、被害者の救済だけでなく、行為者の意識改革、そして組織全体の働きやすさの向上が実現しました。

ハラスメント防止対策のポイント

  • 被害者に寄り添った丁寧なヒアリング
  • 制度とガイドラインの整備
  • 行為者への教育的アプローチ
  • 職場全体の意識改革

当社は、このような専門的なアプローチで、お客様企業の健全な職場環境づくりをサポートいたします。
お問い合わせ・ご相談は、お気軽にどうぞ。

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