流通業(従業員250名)「パート社員への差別的扱い」− 職場内差別と人権配慮不足への包括的対応

事案の概要

本事例は、従業員約250名を擁する流通業企業における、正社員からパート社員への差別的扱いと人権配慮の欠如に関するハラスメント案件です。

行為者: 40代後半 女性 正社員(売り場リーダー)

被害者: 30代 女性 パートスタッフ(および複数の同僚パート社員)

相談内容の詳細と発覚の経緯

被害者である30代女性パートスタッフから、自社が契約している「職場のハラスメントの社外相談窓口」(弊社)に深刻な訴えが寄せられました。相談内容は単なる「厳しい指導」の域を超え、職場における差別的な扱いと人権への配慮が著しく欠如した事案でした。
そのため、私たちZEROハラスメントが関係者にヒアリングすることになりました。

具体的なハラスメント行為

①感情的・恣意的な差別対応

行為者である売り場リーダーは、個人的な好き嫌いを基準として、パートスタッフに対する態度を露骨に変えていました。特定のスタッフには丁寧に接する一方で、気に入らないスタッフに対しては明確な差別的対応を行っていたようです。
気に入らないスタッフに対しては、業務上必要な指示や情報共有を意図的に省略し、結果としてミスが発生すると、周囲にも聞こえる大きな声で強く叱責するという悪循環を繰り返していました。これは、意図的に失敗させて責めるという悪質な行為パターンの可能性があります。

②不当な業務配分と雑務の押し付け

特定のパートスタッフに対しては、段ボールの処理、ゴミ捨て、バックヤードの清掃など、本来チーム全体で分担すべき雑務を集中的に押し付けていました。これにより、被害者は本来の販売業務に集中できず、スキルアップの機会も奪われる状況が続いていることに強い不満を持ちました。

③雇用形態による差別的発言の反復

最も深刻だったのが、雇用形態を理由とした差別的発言の繰り返しでした。

  • 「どうせパートでしょ」
  • 「パートは責任ないから楽だよね」
  • 「正社員はこんなことまでやってるのに」
  • 「パートのくせに口出ししないで」

こうした発言は、パートスタッフの人格と労働価値を否定する重大な人権侵害にあたる可能性が高いです。

④報復的なシフト削減

決定的な問題として、被害者が業務改善について意見を述べた翌月から、シフトが週4日から週1〜2日へと大幅に削減されるという報復行為がありました。これは、正当な意見表明に対する明確な報復であり、パワーハラスメントの典型例といえます。生活の基盤となる収入に直接影響を及ぼす極めて悪質な行為になります。

対応プロセスの詳細

当社ハラスメント防止コンサルタントチームは、企業からの依頼を受け、以下の段階的かつ包括的な対応プロセスを実施しました。

第1段階:被害者からの丁寧なヒアリング

被害者との個別面談を、安心して話せる環境(プライバシーが確保されたWEB面談)で実施しました。面談では以下の点を重点的に聴取しました。
被害者は相談時点で既に精神的に追い詰められており、ディスプレイ越しでも涙ながらに訴える場面も何度かありました。無理に詳細を聞き出すのではなく、被害者のペースを尊重し、必要に応じて複数回に分けて面談を実施しました。

第2段階:行為者へのヒアリング

人事部長立ち会いのWEB面談で、売り場リーダーに対して事実確認のヒアリングを実施しました。この段階では、以下の方針で臨みました。

  • 感情的な追及ではなく、事実関係の冷静な確認
  • 具体的な発言内容と日時を例示しながらの質問
  • 本人の認識と意図の確認
  • ハラスメントに該当する可能性があることの説明

行為者の反応は当初、「指導の一環だった」「パートさんのためを思って厳しくしていた」と正当化する姿勢を見せました。しかし、具体的な発言内容を示しすと、次第に自身の言動の問題性に気づき始めました。
シフト削減については「たまたま人員調整の時期と重なった」と説明しましたが、タイミングと対象者の選定に合理的説明がつかず、事実上の報復行為であったことを認めざるを得ませんでした。

第3段階:第三者証言の収集

被害者の同意を得た上で、同じ売り場で働く他のパートスタッフ5名に個別にWEB面談を依頼し実施しました。
5名中4名から、被害者の訴えを裏付ける証言が得られました。さらに、2名は自身も同様の差別的扱いを受けた経験があることを明かしました。
「言っても変わらないと思った」「自分のシフトも減らされるのが怖かった」という声が複数聞かれ、問題が構造的かつ長期的であることが判明しました。

第4段階:企業としての再発防止策の構築

実施した具体的施策は次のとおりです。

1.業務マニュアルの再整備と周知徹底

  • 業務指示、情報共有、業務配分に関する明確な基準を文書化

2.シフト管理体制の透明化と権限の分散

  • シフト作成プロセスの可視化(希望・実績・調整理由の記録)
  • 売り場リーダー単独ではなく、上長のチェック体制の導入

3.リーダー層への集中研修

  • 全店舗のリーダー・管理職を対象としたハラスメント防止研修
  • 雇用形態による差別の禁止と多様な働き方の尊重についての教育

4.定期的なモニタリング体制の構築

  • 毎月の従業員満足度調査(匿名)の実施
  • ハラスメントの社外相談窓口の再周知による利用促進

5.当該行為者への個別対応

  • 2ヶ月間の売り場リーダー職務停止と再教育プログラムの受講
  • 職場復帰後の人事部による継続的なフォローアップ
  • 再発時には厳正な懲戒処置を行うことの明示

第5段階:被害者および職場全体へのフォローアップ

被害者への支援:

  • シフトの原状回復
  • 必要に応じて配置転換の選択肢も提示(本人の希望により現職場に留まることを選択)
  • 定期的な面談による心理的サポートの継続
  • 外部カウンセラーによるメンタルヘルスケアの提供

職場環境の改善:

  • 全スタッフへの経緯説明(個人情報に配慮しつつ、企業の姿勢を明示)
  • 「風通しの良い職場づくり」をテーマとしたチームミーティングの定例化
  • 相互尊重と心理的安全性の確保を最優先課題として位置づけ

事例から得られた教訓と提言

本事例が示す重要なポイント

1.雇用形態による差別は重大な人権問題

パート・契約社員・派遣社員など、雇用形態が異なっても、全ての労働者は平等に尊重されるべき存在です。「パートだから」という理由での差別的扱いは、パートタイム・有期雇用労働法における「不合理な待遇差の禁止」にも抵触する可能性があります。

2.報復行為の深刻性

正当な意見や相談に対する報復(シフト削減、配置転換、降格など)は、ハラスメントの中でも特に悪質です。これは労働者の権利行使を萎縮させ、組織全体の健全性を損ないます。

3.第三者証言の重要性

ハラスメント事案では「言った・言わない」の水掛け論になりがちです。客観的な第三者証言の収集が、事実認定と適切な対応の鍵となります。

4.構造的問題への対処

個人の処分だけでは再発防止にはなりません。権限の集中、チェック機能の不在、教育の欠如など、組織の構造的問題に踏み込んだ改善が必要です。

企業に求められる対応

  • 明確な方針の策定と周知:ハラスメント防止と多様性尊重の方針を明文化
  • 相談しやすい体制の構築:正社員だけでなく、多様な雇用形態の従業員の意見を吸い上げるためにハラスメントの社外相談窓口の再周知
  • 管理職教育の継続:リーダー層への定期的な研修(ハラスメント防止研修を含む)

まとめ

本事例は、一人のリーダーの不適切な言動が、複数のスタッフの人権を侵害し、職場環境全体を悪化させていた深刻なケースでした。しかし、適切な介入と包括的な再発防止策により、被害者の権利回復と職場環境の改善を実現することができました。
現在、この企業では、雇用形態に関わらず全ての従業員が互いを尊重し合う職場文化の醸成が進んでいます。パートスタッフからも「意見が言いやすくなった」「公平に扱われていると感じる」という声が聞かれるようになり、離職率の低下と顧客満足度の向上という好循環も生まれています。
当社は、このような職場内差別やハラスメントの防止・解決に向けて、調査から再発防止策の構築まで、一貫したコンサルティングサービスを提供しています。
職場のハラスメントを防止し、解決することが出来る人員の雇用が困難な中小企業様、お困りの際はぜひご相談ください。

本事例は実際の相談事例をもとに、個人情報保護の観点から内容を一部改変して作成しています。

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