ソフトウェア開発会社(従業員40名)におけるWEBでの1on1ミーティング中に発生したハラスメント

本事例は企業様の許可を得て、企業や当事者が特定されない程度の脚色を加えた上で掲載しています。実際の事例と異なる部分がありますので、あらかじめご承知おきください。

事例の背景

コロナ禍以降に、リモートワークを積極的に取り入れているソフトウェア開発会社です。
プロジェクト単位での進捗管理を重視しており、多くのやり取りはオンライン会議ツール上で行われていました。チームリーダーとメンバーの1on1ミーティングは週1回程度設けられ、進捗確認や技術的なサポートを行う場としていました。
一方で、「オンラインでのコミュニケーションにおけるハラスメント」に対する社内の理解は十分とは言えず、管理職向けの研修も過去に一度実施したのみで、継続的な対策が行われていませんでした。
実際に出勤する日数は、担当している業務やプロジェクトにより異なりますが、今回の事例のプロジェクトは、ほとんど出勤せずに遂行されていました。
そのような環境の中で、今回のトラブルが発生しました。

関係者プロフィール

行為者:30代男性 チームリーダー

チームリーダー職として中途入社して3年目。履歴では、数回のプロジェクト成功に貢献した実績があるが、現職では目立った成果を上げていない状況であり、最近は他の部下(男性)から「自分の責任ではない進捗の遅れを厳しく責められた」との不満を総務部の担当者が受けていました。
会社として状況確認の場を設けようとしていた矢先に今回の事件が発覚しました。

被害者:20代女性

エンジニアとして新卒から同社に在籍し、2年目の若手社員。同期の中では技術力が高く、これまでは仕事の進捗も遅くはないとの評価を受けていました。

相談に至った経緯と問題の実態

被害者である20代女性エンジニアは、担当していた開発業務の進捗が遅れていることを理由に、週次のオンライン1on1ミーティング(以下、「1on1」という)でチームリーダーから指摘を受ける場面が続いていました。
リーダーは「仕事の進め方を改めて教えるから、今度ゆっくり食事でもしながら話そう」と夜の食事へ誘いました。
被害者はオンライン上で説明を受ければ十分と考えて断りましたが、次週の1on1でも同様の誘いが繰り返されました。
その翌週の1on1で、被害者が誘いを再び断ると、行為者は態度を急変させ、次のような発言をしました。
「仕事が遅いから、仕事のやり方を教えてやるって言ってるんだ」
「やっぱりこの仕事は向いてないんじゃないか?」
「本当に使えないな」
さらに、侮辱的な発言は人格攻撃へとエスカレートし、
「好きで誘ったわけじゃない。デブはタイプじゃない」
といった、業務とは無関係な容姿への侮辱もありました。
オンラインの画面越しであるにもかかわらず、その言葉の衝撃は大きく、被害者は涙をこらえることができず、ミーティング後しばらく業務が手につかない状態となりました。
翌日から2日間会社を休み、3日目にメンタルクリニックを受診したところ、
「抑うつ状態・意欲低下・不眠を伴う適応障害」で1か月間の休職との診断が下されました。
総務部に「このリーダーのもとでは働き続けられない」と被害者からメールがありました。

当社による対応プロセス

ステップ1:被害者への丁寧なヒアリング

まず、被害者とメールにて数回のメッセージのやり取りをした後、被害者が安心して話せる状態になってから、許可を得てオンラインで面談を実施しました。
以下の点を中心に、負担にならないように配慮しながら詳細を確認しました。

  • 問題発言があった日時・オンライン会議の頻度
  • 具体的な発言内容と、その時の状況
  • 被害者が抱いた感情と精神的負荷
  • 行為者との関係性やこれまでのコミュニケーション状況
  • 業務上の支障や休職に至る経緯

被害者の心理的負担が大きい出来事の直後のため、安心して話せる環境づくりを最優先しました。そのため、包み隠さずお話いただけました。

ステップ2:行為者(とされる方)へのヒアリング

被害者の同意を得た上で、行為者(当初から行為者と断定していませんが、文章の簡略化のため以下「行為者」とします)であるチームリーダーに事実確認を行いました。
私たちは、感情的な対立を避けるため、
「具体的な場面・発言を一つずつ例示しながら確認する」
というアプローチで進めました。
行為者は当初、
「指導のつもりだった」「部下のためを思って誘った」「オンラインでは伝わりにくいこともあるので会って指導しようと思った」
と自己弁護的な発言を繰り返していました。
しかし、具体的に問題となる発言を示しつつ、職場における権限性やオンライン環境における受け取り方の影響力について説明したところ、次第に
「軽率な発言だった」「相手を傷つける意図はなかった」「頭に来て言い過ぎてしまった」
と、自身の行動が不適切であったことを認めました。

ステップ3:企業への改善提案とアフターフォローの設計

調査結果を基に、企業には次の対応を提案し、実行をサポートしました。

①被害者の部署異動の実施

被害者が安心して復職できるよう、行為者の影響が及ばない部署への配置転換を提案しました。
企業側もこれを了承し、受け入れ部署と復職支援プランを策定しました。そのため3か月の休職後に在宅勤務社員として復職しました。

②管理職向けハラスメント防止研修の実施

特にオンラインコミュニケーションにおけるハラスメントリスクが高まっていることを踏まえ、以下を中心とした研修を実施しました。

  • オンライン1on1における適切な指導方法
  • 権限性が働く場面での言動の注意点
  • セクシャルハラスメント・パワーハラスメントの最新事例
  • 「無自覚ハラスメント」防止のためのセルフチェック
  • チームメンバーのメンタルサインの見方

③研修後のフォローアップ面談

行為者を含む管理職に対して、研修後3ヶ月程度を目安にフォロー面談を設定し、

  • 現場でのコミュニケーション改善状況
  • 管理職としての指導の仕方
  • チーム内で起きている小さな問題の早期発見

などを確認しながら、改善の定着を支援しました。

④再発防止の具体化

「1on1を安全に運用し直す」ために、次のような運用改善も提案しました。

  • 業務時間外の誘い・私的接触を、管理職行動規範として明確化(“本人の意思”と“断る権利”を無視しない)
  • オンライン会議の録画の義務化(監視ではなく、トラブル予防のための透明性)
  • テレワーク環境でもハラスメント防止が必要であることを周知

事例から見えた課題と効果

本事例を通じて明らかになったのは、
「オンライン環境での1on1はハラスメントを誘発しやすい」
ということです。

  • 第3者に声が届かない環境で、2人きりになる
  • 表情が読み取りにくく、言葉が強く響きやすい
  • 密室性が高く、部下が拒否しにくい

こうした特性を踏まえて、企業は改めてオンライン環境でのコミュニケーションの原則を整備し、管理職がそれを実践できる環境づくりが求められます。

今回の取り組みにより、下記の効果が発生し、企業としても大きな改善の契機となりました。

  • 被害者が安心して復職できる体制の構築
  • 行為者および管理職全体の言動改善
  • オンラインハラスメントに関する社内理解の向上
  • ハラスメント相談窓口の利用促進

当社では、ハラスメント事案のヒアリング・円満解決支援から、予防のための研修・ハラスメント防止規程の作成まで、トータルでサポートいたします。お困りの際は、お気軽にご相談ください。

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